尊敬する人は？と訊かれれば、父親だと答える。
以前なら「誰も尊敬していない」などと稚拙な答を返していたと思う。
それがここ数年で、大きく変わった。
どちらかというと嫌いな筈だったのにな…それもお互いに。

父親と兄はしばしば口論になることがあったけれども、実際、僕とはなかった。
口論にもならないくらい僕という人間は“つかみ所”がなかったし、
小学校の先生をしていた僕の父親は、根が真面目な性格だったから、
叱咤（しった）する以前に、何かと理解に苦しんでいたのかもしれない。

僕は父親に誉められた記憶がほとんどない。
逆に母親には叱られた記憶しかないけれども…。
おそらく人生で3回だけだと思う。

幼稚園に入る前、適当な言葉で「日本昔ばなし」の唄を歌っていると、
『お、歌が上手やなぁ』と言われたこと。
次は小学校高学年の頃に、『あんたは割と文学的な表現をしはるなぁ』と言われたこと。
最後は2、3年前に『もっと文章を書いて発表しなさい』と言われたこと。

お気付きだろうか。
僕は書いてみて愕然としている。
はっきりと誉められてるのは1回だった…。