新しく出来た大型マンションに、S野さんは引っ越して来た。
白いシャツに黄緑色のスカートとハイソックスがとても印象的な女の子。
もう転校生というだけで僕の心はメロメロなのに、なんと彼女は双子だった。
しかも頭が良くて、いつもテストは100点ばかり。
同じ顔をしているんだけれども、妹の方にはまったくドキドキしなかったから不思議だ。

ある時、S野さんがテストで85点の時があった。
いつも100点満点のS野さんが、85点なのである。
「うわ、S野さん85点やっ！」
僕は驚いたので、大きな声で言ってしまった。
もちろんS野さんは恥ずかしいやら悔しいやらで泣いてしまう。
いつも100点の人間が85点しかとれなかったら、そりゃあショックだろうな。
中井家なら外に食事に連れて行ってもらえるくらい、もう高得点なのになぁ…。

その日の夜、僕はクラスのN村君と一緒に、S野さんの住むマンションに行った。
で、何をしたかというと、S野さん家のベランダに向かって、
「S野さ〜ん、好きや〜！！！」
謝るつもりだったのが、勢いあまって告白してしまった。
しばらく経っても、S野さんは顔を出さなかった。
ただただ爆笑するばかりのN村君。
そういえば、周りの部屋の人が顔を出していたような…。

年に1度ほど、父親参観というのがあった。
幸か不幸か、僕の父親は忙しいので、参観日にはほとんど現れなかった。
授業が終わって、僕はS野さんと彼女のお父さんを見つけた。
何を思ったか僕は二人の前まで行って、間違いなく、こう言った。
「おぉ！これはこれはお父さん、どうもどうも。」
鳩が豆鉄砲を食ったような、まさにそんな顔だったなぁ…。

S野さんが僕の事をどう思っていたかは知らない。
知らないんだけれども、お正月に彼女から年賀状が届いた。
左隅に（ハガキ、女の子みたいでごめんネ！）と書いてあった。
何を何をっ、こちらとしても勿論、女の子みたいなハガキじゃないと具合が悪い。
間違っても、高槻の叔父から来たみたいな達筆で渋いのでは困る。
結局、その後は何がどうなったのだろう。
別に何もどうもならなかったんだけれども。

とにかく、僕の実家の机の引き出しには、S野さんからの年賀状と淡い想い出がしまってある。