僕がまだ実家にいた頃、家の庭に猫が入って来た。
毛並みの良いシャム猫だったので、きっと良家の飼い猫に違いなかった。
身なりの綺麗な、高貴そうな猫。
僕はその猫に軽く会釈をした。
「あ、どうも。」
みたいな感じで…。
すると、その猫も、
（あらら、お知り合いだったかしらん…。挨拶しないと失礼かしらぁ？）
などと一瞬躊躇した様な間こそあったけれども、照れくさそうに首だけをペコっと前に突き出した。

いつも通る道に、玄関で犬を飼っている家があった。
よく吠える犬だったので、番犬には向いていたのだろう。
が、あまりにも毎日吠えるので、正直なところ、僕は少しだけ苛立っていた。
いい加減に顔を覚えりゃいいのに、ってな感じで。
で、ある日、僕は覚えてもらう為にその犬に挨拶をした。
案の定吠えているんだけれども、気にせず元気良く、
「オッス！」
と言ってやった。
すると、犬は吠えるのをやめて、
『…ウォッフ』
と僕に言い返した。