僕の思春期はポルノ文化の転換期だった。
成人映画の衰退と、アダルトビデオの参入の時期である。
もちろんDVDなんてまだない。

デジタルかアナログか？なんていう以前の図式。
カメラの前で本当にセックスをするのか、もしくはそういう演技をするのか。
まぁ、中学生の男子にとってはどっちにしろ刺激的だったけれども。

ある日、同級生が成人映画を観たという話を教室でしていた。
しかも“無料で”という信じられない話を聞かされた。
その映画館、なんでも母親がパートで働いているらしい。
中学2年生の男子にとっては、夢のような状態なんである。

僕はそいつとは直接遊んだりする仲ではなかった。
が、日活ロマンポルノが観たいという気持ちが押さえきれる訳もなく…。
そう、ポルノなんである！
なんならロマンなんである！！
淫靡（いんび）なピンク色の世界に魅せられた僕は、遂にそいつと遊ぶことに成功した。

「あ〜なんか映画観たいなぁ〜。」
などと空々しく言う僕に、
「ほんだらお母ちゃんとこ行こか。」
と、そいつは答えた。

入り口はひとつ。
そこから右と左に分かれて、普通の映画館と成人映画の方になっていた。
慣れて落ち着いているそいつとは対照的に、僕はもうドキドキしっぱなしだった。
だって学校帰りに学生服で行ったからなぁ。

正面に受付嬢の制服を着たおばちゃんが二人。
二人！？
一人は無関係というか、まったくの赤の他人という。
そんな状況が僕の緊張を増長させた。

オカン：「なんや、友達かいな。」
そいつ：「うん。」
オカン：「ほんでどっち観んねんな。」
そいつ：「せやなぁ…。」
オカン：「今日、こっち面白いで。」
そいつ：「ほんだら、それ観るわ。」

今思えば、あの時、何を観たのだろうか？
洋画だった気がする。
それも激しいアクション物の…。
ピンク映画を観るつもりだった僕が、ブルーになったのは言うまでもない。