よく知らない人がいる。
もう何回も会話しているので、今さら聞けない。
失礼に当たるといけないので、ストレートには、ちょっと…。

以前、既に、知り合った人に、
「どうも、初めまして！」
などと挨拶して、ムッとされた事がある。
（こんなぐらいで、人間の小さい奴だなぁ…）と思っていると、
よく考えれば、その人とは、もう５回目だった。

名前を知らないから、他の人が名前を呼ぶことを期待しつつ、会話を繋ぐ。
そんな時に限って、誰も寄って来ない。
そもそも、向こうが僕の事を知っているのかどうかも怪しい。
相手が気さくな感じなので、そのうちに、意外と話が盛り上がったりする。
「ははは。で、誰？」
なんて、間違っても、聞けない。

後になって、友達に尋ねる。
あの女の人は誰なん？
「え？誰のこと？？」
ほら、あの、いつも気さくな。
「さぁ？」
なかなか、話が噛み合わない。

気になるから、スタッフの人にも尋ねる。
「いや、関係者でそんな人はいないですよ。」
え、だって二階に上がって行きますよ？
「おかしいな？じゃ誰のことでしょう？」
ほら、ショートカットでお洒落メガネの。
「あれ？中井さんのお友達じゃないんですか？」

結局、その場では“オペラ座の怪人”よろしく、謎のままに。
とはいえ、あまりにも気さくに、快（こころよ）く喋ってくるので、
“オペラ座の怪人”ならぬ、オペラ座の“快人”さんと、僕は呼んでいた。
ま、“座敷わらし”だ、という説も有力視されたのだけれども。

思わぬ場所で、その人と再会することが出来た。
ありがたいことに、同席していたクライアントの方が、
初対面同士だと思って、その人を紹介してくれた。
僕は溜まっていた気持ち悪さを、この時とばかりに、ぶちまけてしまった。

「いやいや、私の方こそ、変な感じでしたよ〜、だって中井さん、
私のコト、知り合いだと思って話しかけてくるんですから〜！」