一年ほど前に、サイズの合わない靴を長時間履いたまま、ずいぶんと歩き回った事がある。
少し小さめの靴を、ステージ用なので問題ないだろう、と思って購入していた。
その日、急な仕事が入り、靴を履き替える間もなく、次の現場まで向かった。
車にも乗っていたんだけれど、いかんせん歩く距離が長かった。
打ち上げにいったお店がテーブルだったので、計16時間もその靴を脱げなかった。
家に戻って、靴下を脱いでみると、両足の親指の爪に血豆が出来ていた。

それから一ヶ月くらい経って、右親指の爪の横あたりが赤く腫れてきた。
血豆を避けて爪を切っていたのが災いして、爪の内側を傷つけてしまったみたいなのだ。
普通の切り傷ならば、バイキンも消毒されるはずなのだけれど、爪の内側ということになると、
バイキンは爪の下に逃げ場所を見つけ、さらに奥へと進み、親指の半分が真っ赤になってしまった。
結局、抗生物質でも抑えることが出来ず、爪を半分も剥（は）がして治療することに。

爪をはがす時に、麻酔の注射を打つのだけれど、こいつが痛いらしい。
「中井さん、痛いですよ。」
と医者が言う。
顔にタオルを被せられて、看護婦さんに押さえつけられる。
（え、そんなに痛いの？？）
僕の予想をはるかに越えた準備なのである。
で、痛いの痛くないのって、もう声が出るくらい、…ものすごく。
そりゃ炎症を起こしている部分に針を刺すんだからなぁ。
「君、ちゃんと押さえて。」
と医者が看護婦さんに言う。
どうやら僕は痛みに耐え切れず、悶絶していたみたいなのだ。

何をされるのが、人間にとって一番痛いのだろうか？
ジャイアント馬場が、「たまには俺もエンターティナー」というエッセイの中で、
“のど仏”に麻酔注射したのが人生で一番痛かった、と述べている。
タイガー・ジェット・シンにサーベルで殴られるのなんかよりも痛い、とまで言っている。
ブッチャーに地獄突きされるよりも痛い、と言ったほうが適切だったのでは…。
（地獄突き：のど仏を指で突く、空手を応用した打撃技。ブッチャーといえばこの技。）

で、先日、友達数人と飲んでいて、話題が“痛い話”になった。
もちろん、僕の親指注射も、ジャイアント馬場の“のど仏”注射の話も披露。
すると、一人が、とっておきの痛い話があると言ってきた。
「あんな、“ヘソ”にな、たこ焼きをひっくり返す“千枚通し”を刺すとかな。どう？」
これには全員ヘソを押さえて痛がってしまったけれども。
というか、どう？って、そんなもの刺したら痛いに決まってるやろうがっ、みたいな。

僕は経験がないんだけれども、骨折って、やっぱり痛いらしい。
大学の頃、アゴの骨にヒビが入ったことはあるけれども。
酒の強い先輩と、半日間ずっと飲み続けた上、泥酔してアゴから倒れるという。
3針ほど縫ったんだけれど、痛いというよりは、泥酔していたので、
ふわ〜として気持ち良かった、という記憶が…。
そんなに痛くはなかったけれど、これはかなり“イタい話”である。