ねぇ、この曲って…、何だったっけ？
知らない。
ん〜、何かに似ているみたいだけど…。
あぁ、コニー・フランシスのボーイハントだよ。
ふうぅん。

みたいな会話を昼間にしていて、夜になって家に帰る。
で、何気にラジオをつけると、その曲が流れてくる。
そんなことって結構よくある。

心理学でシンクロニシティーという言葉がある。
ユングだったかな？
偶然性の低い偶然というか、ほぼ必然というか。
あらかじめ台本で決まっていたかのような現象が起こる事。

僕はこの手の考えに、安易に意味を持たせようとする類の人が苦手だ。
確率はかなり低いんだろうけれど、起こりえる可能性はあるのだから。
すぐオカルトに分類したり、科学を振り回したりするんじゃなくって…。
出来る限りいろんなことにニュートラルでいたい。

ふうぅん。
と感心しているのか無関心なのか曖昧な相づちをする。
肯定するでもなく否定するでもなく。
多くの場面で、出来ればそんなリアクションをしていたい。
よく分からないことには中立の立場でいられるように。

レストランでバイトをしていた。
僕の仕事のひとつは、ライスを皿に盛ること。
自慢じゃないが、毎回同じ量を入れることが出来た。
大盛でも普通盛りでも、毎回同じグラムで。
量りに乗せるのだから間違いない。
初めからは絶対無理。
慣れというのは、少々の不可能なら可能に変えてしまうのだ。

本に“しおり”を挿（はさ）む仕事の人がいる。
僕は知らなかったんだけれども、挿むページって決まっているらしい。
勘のいい読者の方はもうお気付きだろう。
そう、慣れると毎回同じページを開くことが出来るそうな。

どちらかと言うと、僕は勘がいい方だ。
ある日、友達とトランプをしていた時のこと。
何故だか僕は、意味もなく友達を驚かせたくなった。
友達の目の前で、トランプを全部裏返しにしてから、適当に何のカードかを当てていった。
勿論ぐっちゃぐちゃにカードは混ざっている。

これはダイヤのエース。
これもエースで柄はスペード。
で、これはジョーカー。
じゃあ、次はもう一回エースを出そうか？
はい、クローバーのエース。

この時点で友達は顔面蒼白になって驚いていた。
まったく、とんでもない。
だって一番驚いていたのは、誰でもない僕なのだから。
次のカードまで当てていたら、人生感が変わっていたかもしれない。
やはり、ハートのエースって出てこないものなんだ。

思いおこせば、あの時、単純に何故か少し怖くなった。
たいした心構えもなく第六感で遊んだりすると、とても変な感じになってしまう。
まぁ、そんな時でもこう言いたいんだけれども。
ふうぅん。
だって有り得ることでしょう？
それこそ慣れれば普通に当てられることになるのかも。

で、この話にはまだ続きがあって、僕はさらにもう一枚カードをめくってみた。
すると出てきたのは、なんとハートのエースだった！

ふうぅん。
（でいいのか？）